帰れない雰囲気で残業してしまうときの対処法|勇気ではなく、予定で帰る

上司・職場の人間関係

「お先に失礼します」——たったこの一言が、言えない。

自分の仕事は終わっている。なのに、周りはまだ全員残っている。カバンに手を伸ばしかけて、引っ込める。急ぎでもないメールを開いて、なんとなく時間をつぶす。気づけば1時間、意味のない残業をしていた……。

私にも覚えがあります。エンジニア時代、タスクの整理で自分の仕事はだいぶ減ったのに、チームメンバーはまだ遅くまで残っている。そうなると、平日は帰りづらいのです。結局、残って付き合うことが多くありました。

思い当たるなら、まず知ってほしいことがあります。その残業、誰にも頼まれていません。あなたを引き留めているのは上司でも仕事でもなく、職場の「空気」です。そして帰れないのは、あなたの意志が弱いからではありません。空気に逆らえないのは、人間に備わった性質なのです。

解決策:定時後の時間に「予定」をカレンダーに入れてしまう

やり方は簡単です。共有カレンダーの定時後の枠に、「予定あり」と入れてしまう。それだけです。

今は多くの職場で、お互いのスケジュールがPCから見えます。カレンダーに予定が入っていれば、あなたは周りから自然に「今日は予定がある人」になる。夕方に勇気を振り絞って言い出す必要はありません。予定が、あなたの代わりに宣言してくれるのです。

「予定なんてないのに」と思うかもしれません。でも、ジムも、家族との夕食も、録りためたドラマを観る時間も、立派な予定です。自分との約束だって、先約は先約。嘘をつく必要はどこにもありません。

仕上げに、昼休み明けにでも「今日、定時で出ますね」と一言添えておけば完璧です。

先に入れた予定が、空気より強い理由

理由①:空気に流されるのは、意志の問題ではない(アッシュの同調実験)

心理学者ソロモン・アッシュの有名な実験があります。明らかに間違った答えでも、周囲全員がそれを選ぶと、約3人に1人がつられて同じ答えを選んでしまうのです。

線の長さという「目に見える正解」ですらこうなのです。「何時に帰るべきか」という正解のない問いで、周りに流されるのは当然のこと。だからこそ、意志の力ではなく仕組みで対抗する必要があります。

理由②:孔子「君子は和して同ぜず」

『論語』に、こんな言葉があります。

「君子は和して同ぜず」——立派な人は、人と調和はするが、安易に同調はしない。

周りと良い関係を保つことと、周りと同じ行動をとることは、別の話です。2500年前から、それが成熟した人のあり方とされてきました。定時で帰ることは、チームへの裏切りではないのです。

理由③:人は「意思」より「事情」に寛容

夕方の「帰っていいですか」は、あなたの意思の表明です。意思には「やる気がないのでは」という評価がついて回ります。

でも、カレンダーに入った予定は「動かせない事情」として扱われます。「今日は予定があるので」と言われて、責める人はほとんどいません。同じ「定時で帰る」でも、意思として見せるか事情として見せるかで、周りの受け取り方はまったく変わるのです。

私の場合|「事情」があった日だけは、帰れた

正直に告白すると、私はこの「帰れない空気」に勝てなかった側の人間です。自分の仕事が終わっていても、結局残って付き合うことがほとんどでした。

それでも、週に一度だけ、迷わず帰れる日がありました。会社の制度のノー残業デーです。

あの日だけは、「お先に失礼します」に何の勇気も要りませんでした。制度という「動かせない事情」があったからです。誰も咎めないし、自分の中の罪悪感もない。いま思えば、あれこそが理由③で書いた「人は意思より事情に寛容」の実体験でした。

あなたの職場にノー残業デーがあるなら、まずその日を全力で守ってください。制度がないなら——カレンダーの予定で、自分だけの「事情」を作ればいいのです。この記事の解決策は、いわば自分専用のノー残業デーを自分で設ける方法です。

ちなみに、残ると決めた日は、ただ空気に付き合うのではなくチームメンバーの仕事を手伝って、チーム全体の仕事を減らすようにしていました。「帰る日は帰る、残る日はチームのために働く」。メリハリがつくと、帰る日の罪悪感はさらに軽くなります。

カバンに伸ばした手を、引っ込めなくなる

——今までのあなた。

自分の仕事は終わっている。なのに、周りは全員残っている。カバンに手を伸ばしかけて、引っ込める。

「(あと30分だけ、付き合うか……)」

急ぎでもないメールを開いて時間をつぶし、結局1時間後、疲れだけを持って家路につく。何のための1時間だったのか、自分でも説明できません。

——予定を先に入れられた、これからのあなた。

カレンダーに予定を入れるようになって、数週間後。あなたは夕方に葛藤しなくなっています。

今日は予定の日。だから帰る。それだけのことになっているからです。「お先に失礼します」と席を立っても、返ってくるのは「お疲れさまでした」だけ。あんなに重かった空気が、実は自分の頭の中にしかなかったことに、あなたは気づきます。

週に一度の「予定の日」は、あなたの生活に確実に自分の時間を運んでくれます。私がノー残業デーという「事情」に守られて帰れたように、あなたの予定はあなたを守ってくれるのです。

勇気ではなく、予定で帰る

帰れない空気に、意志の力で立ち向かう必要はありません。定時後の枠に予定を1つ入れる。それだけで、「帰る理由」があなたの代わりに働いてくれます。

まずは今週、どこか1日を選んで、カレンダーに予定を入れてみてください。中身は自分との約束で構いません。その小さな先約が、重い空気からあなたを解放する第一歩になります。

参考文献

  • Asch, S. E. (1956). Studies of independence and conformity: A minority of one against a unanimous majority. Psychological Monographs, 70(9), 1–70. doi:10.1037/h0093718
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