「あれ、その話、聞いてないんですけど」
自分が関わっているはずのプロジェクトなのに、決定事項を後から知らされる。「必要な情報が上司から共有されない」まま作業を進めていて、ある日突然「もう決まったから」と言われる。
「え、その会議、いつやったんですか」——会議に呼ばれないまま話が進み、気づいたときには決定事項だけが降ってくる。何を基準に決まったのかも分からないまま、結果だけを渡される。
そんなことが続くと、「このまま仕事しててもいいのかな」という不安がじわじわと大きくなる。自分だけが蚊帳の外に置かれているような感覚は、仕事の内容以上に人を疲弊させる。
私にも経験がある。作業に必要な情報が、上司のところで止まっていたのだ。情報が来ないので作業は進められず、止まったまま。ようやく情報が降りてきた頃には、納期はギリギリになっていた。
「情報をくれと言ったら、うるさい奴だと思われそう」——そう思うかもしれない。でも、情報を求めることは、催促でも図々しさでもない。
「関わる部分だけでいい」と一言リクエストする
やることはシンプルだ。情報が来るのを待つのではなく、「自分の担当に関わる決定事項だけは、後からでいいので共有してほしい」と一言リクエストする。
たとえば「議事録の該当部分だけ、後で共有いただけますか」「この件に関わる部分だけでいいので、決まったら教えてください」と伝えるだけでいい。会議への参加自体を求めなくても、情報の入り口を一つ作っておくだけで、蚊帳の外に置かれる感覚は大きく変わる。
「そんなことで本当に変わるの…」
そう思うかもしれません。でも、これには理由があります。
理由① 相手には、あなたの「知りたい」は伝わっていない
心理学には「透明性の錯覚」という考え方がある。人は、自分の状況や気持ちが相手にも伝わっていると錯覚しやすいが、実際には黙っていれば相手には何も伝わっていない。
「自分が関わっているのだから、情報は共有されて当然」とあなたが思っていても、上司の側が同じように認識しているとは限らない。「言わなくても分かるだろう」という思い込みは、あなただけでなく、情報を発信する側にも起きている。だからこそ、「知りたい」という意思を、言葉にして伝える必要がある。
理由② 情報を求めることは、弱さではなく成長の行動
経営者の松下幸之助はこう言っている。
「素直に人に聞くことができる人は、必ず成長する」
情報を求めることを「迷惑」や「図々しさ」だと感じてしまう人は多い。しかし、必要な情報を求めることは、仕事を前に進めるための当然の行動であり、それを素直にできる人ほど、周囲からの信頼も情報も集まりやすくなる。聞かないまま抱え込む方が、結果として仕事の質を下げてしまう。
理由③ 情報が止まるのは、多くの場合ただの余力不足
情報が共有されないと、「自分は軽んじられているのでは」と感じてしまいがちだ。しかし実際には、上司自身が忙しく、共有すること自体を忘れているだけのケースが多い。
意図的に情報を隠しているわけではなく、単に「共有するタスク」が上司のやることリストから抜け落ちているだけのことがほとんどだ。だからこそ、責めるのではなく「共有してほしい」と一言添えるだけで、仕組みとして情報が流れてくるようになる。
私の場合|リクエストして、それでも来なければ取りに行った
私がやっていたのは、二段構えだ。
まず、自分の担当に関わることは共有してほしい、とリクエストしておく。これがこの記事の型だ。
ただ、正直に言うと、リクエストしても共有されないことはある。上司も忙しい。「共有するタスク」は、相手のやることリストから簡単に抜け落ちる。
だから、来ないときは待たなかった。「あの件、どうなりましたか」と口頭で聞く。席にいなければ、メールで確認する。自分から情報を取りに行くのだ。
この動きに変えてから、納期に余裕が生まれた。情報待ちで作業が止まる時間が、なくなったからだ。
待っている時間は、「相手が思い出してくれるかどうか」に賭けている時間だ。取りに行けば、その賭けはいらなくなる。リクエストで情報の入り口を作り、来なければ自分で開けに行く。この二段構えなら、情報はほぼ止まらない。
決定事項だけが降ってくる、が終わる
想像してみてください。
今のあなたは、今日も画面の前で手が止まっています。
「情報が来ないと、ここから先は進められないんだよな……」
数日後、上司から降ってくるのは決定事項だけ。
「あの件、〇〇で決まったから。じゃあ、よろしく」
「……それ、先週決まってたんですよね?」
そこから慌てて着手して、納期ギリギリの綱渡り。
でも、一言リクエストできるようになったあなたは、違います。
「この件に関わる部分だけでいいので、決まったら教えてください」
それでも情報が来ないときは、待たずに席まで行きます。
「あの件、どうなりましたか? 私の担当箇所だけでも教えてほしいです」
「あ、ごめん、共有し忘れてた。〇〇に決まったよ」
その日のうちに作業に着手できて、納期の数日前には目処が立っている。「また聞いてない」と慌てることも、「蚊帳の外だ」と落ち込むこともありません。
情報を待つ働き方から、情報を取りに行く働き方へ。その変化は、あなたの仕事への関わり方そのものを変えていきます。
伝える側が「言わなくても伝わる」と思い込んでいる
必要な情報が回ってこないのは、あなたが軽んじられているからとは限りません。
多くの場合、伝える側が「言わなくても伝わっている」と思い込んでいるだけです。「関わる部分だけでいい」と一言リクエストするだけで、情報の流れは大きく変わります。
次に「また聞いてない」と感じたときは、その違和感を飲み込まず、一言リクエストしてみてください。それだけで、蚊帳の外だった場所が、あなたのいる場所に変わっていきます。
参考文献
- Gilovich, T., Savitsky, K., & Medvec, V. H. (1998). The illusion of transparency. Journal of Personality and Social Psychology, 75(2), 332–346. doi:10.1037/0022-3514.75.2.332

