頼んだのに、全然違うものが上がってきた。
「こういうことじゃないんだけど」「言ったはずなのに」「何を考えて作ったんだろう」と、思わずため息が出てしまう。
そんなことが続いていませんか?
何度も修正させてしまう。毎回ゼロから説明し直す。そのたびに相手も自分も消耗する。「なぜ伝わらないんだろう」と、どこかで相手を責めてしまいそうになることもある。
私にも、その経験が何度もあります。目的も意図も伝えたはずなのに、出てきたものは思っていたものと違う。そのたびに痛感しました。人間、言ったことは100%伝わらないものなのだと。
でも、多くの場合、問題は相手の能力ではありません。依頼の仕方に、ある「抜け」があるだけです。
この記事では、そんなあなたに「一度の依頼でほぼ意図通りに動いてもらえる方法」をひとつだけお伝えします。
目的・対象・できあがりの3点で伝える
依頼するときに「完成形のイメージ」を3点セットで伝える。
その3点とは、
- ①何のためのものか(目的)
- ②誰が見るものか(対象)
- ③できあがりのイメージ(具体例・参考)
たとえば、「来週の会議用の資料を作って」と伝える代わりに、こう伝えます。
「来週の経営会議で、部長たちに今期の進捗を報告するための資料を作ってほしい。数字を中心に、A4で3枚くらい。先月の報告資料と同じくらいの粒度でOKです」
この3点があるだけで、相手が迷う余地が大きく減ります。
ゴールが見えない相手は、自分の解釈で動く
① 人は「ゴール」が見えないと、自分の解釈で動くから
「ちゃんと説明したのに伝わらなかった」という経験、ありませんか?
経営学者のエドウィン・ロックとゲイリー・レイサムが提唱した「目標設定理論」では、目標が具体的で明確なほど、人のパフォーマンスが大幅に向上することが35年以上の研究で繰り返し証明されています。逆に言えば、ゴールが曖昧なままだと、人は自分の常識や経験をもとに「なんとなくこういうことかな」と動いてしまいます。
「言ったはずなのに」は、多くの場合、「伝えたつもり」と「伝わった内容」のギャップから生まれます。目的・対象・イメージの3点を伝えることで、そのギャップを依頼の段階で埋めることができます。
② 「伝えた」と「伝わった」は、まったく別のことだから
劇作家のジョージ・バーナード・ショーはこんな言葉を残しています。
「コミュニケーションにおける最大の問題は、それが成立したという錯覚だ」
この言葉は、100年近くたった今でも職場のあらゆる場面で起きています。口頭での依頼は特に、細かいニュアンスが抜け落ちやすい。「資料を作って」という言葉一つとっても、相手の頭の中に浮かぶ「資料」は人によってまったく違います。
「①目的 ②対象 ③イメージ」を言葉にして伝えることは、曖昧さを減らすだけでなく、相手に「自分はこう理解しました」と確認させるきっかけにもなります。認識のズレは、依頼の瞬間に潰しておくのが一番コストが低いのです。
③ 最初の一言が、後の修正時間を何倍も節約するから
「まあなんとかなるだろう」と曖昧なまま依頼すると、修正が1回では終わらなくなります。
トヨタ生産方式で知られる「フロントローディング」という考え方があります。これは、後工程で問題が発覚するほどコストが膨らむため、最初の段階でできる限り情報を出し切っておくという発想です。製品開発の研究では、設計段階での手直しコストを1とすると、製造段階では10倍、市場に出てからは100倍になるという試算もあります。
依頼も同じです。最初に3点を伝えるのにかかる時間は、長くても1〜2分。その1〜2分が、後の何時間もの修正対応を防いでくれます。「こんなに細かく伝えないといけないの?」と感じるかもしれませんが、これは細かい指示ではありません。相手が正しい方向で動き出せる、最低限の情報を渡しているだけです。
「こういうことじゃないんだけど」が減る
——今までのあなた。
出来上がりを見て、ため息をつく。「こういうことじゃないんだけど……」。ゼロから説明し直し、相手は黙って修正に戻る。締切は近づき、お互いの空気は重くなっていく。
——3点を伝えるようになった、これからのあなた。
「なるほど、〇〇向けの説明資料ですね。ラフができたらお見せします」
依頼した直後に、相手の口からゴールの言葉が返ってくる。修正の往復は1回で終わり、動き出しも早い。
私の場合、ここにもう一つだけ工夫を足していました。「10%の出来でいいので、一度見せてください」とお願いしておくのです。言ったことは100%伝わらない——それを前提にすれば、ズレは早く、小さいうちに直すのが一番だからです。方向が合っていれば「その方向でお願いします」の一言で済む。ズレていたとしても、失われるのは10%分の手間だけです。
完成してから「違う」と言い合う関係が、途中で「合ってる?」と気軽に確かめ合える関係に変わっていく。依頼するストレスは、そうやって軽くなっていきました。
ゴールが見えないまま、動かせてしまっている
欲しい成果物が出てこないのは、相手の能力の問題ではないことがほとんどです。ゴールが見えていないまま動かせてしまっているだけ。
今日できることは一つ。
次に何かを依頼するとき、「①何のためか ②誰が見るか ③どんなイメージか」を一言添えてみる。
それだけで、「こういうことじゃない」と言わなくて済む依頼が、少しずつ増えていきます。
参考文献
- Locke, E. A., & Latham, G. P. (2002). Building a practically useful theory of goal setting and task motivation: A 35-year odyssey. American Psychologist, 57(9), 705–717. doi:10.1037/0003-066X.57.9.705

