土曜の朝。まだ布団から出ていないのに、枕元のスマホが震える。
画面に出た名前を見ただけで、体温が少し下がります。仕事の連絡です。
開くかどうか迷って、結局開いてしまう。そして、その日一日、頭のどこかを仕事に持っていかれる。
「これって、違法じゃないの?」
そう検索したことがある人は、たぶん少なくありません。実際、検索窓に「休日 連絡 違法」と入れると、候補に「いつから」「2026」まで並びます。もうすぐ禁止されるらしい、という空気だけが漂っている。
それなのに、いくら記事を読んでも、すっきりした答えは出てきません。「グレーです」「ケースバイケースです」ばかりが並ぶ。
この記事で渡したいものは、ひとつだけです。休日に来た連絡には、「いつやるか」だけを返す。断らない、無視しない、動かない。返すのは「やるかどうか」ではなく「いつやるか」です。
答えが出ないのは、あなたが探している条文が存在しないから
先に、いちばん大事なところをお伝えします。
日本の法律に「休日に連絡をしてはならない」と書いた条文は、ありません。
休日について定めているのは労働基準法の第35条ですが、書いてあるのはこれだけです。
「使用者は、労働者に対して、毎週少くとも一回の休日を与えなければならない」
休日を与えろとは書いてある。けれど、その日に連絡をするな、とは書いていません。
勤務時間外につながらなくていい権利は「つながらない権利」と呼ばれていて、フランスなどでは法律になっています。では日本はどうかというと、2025年1月に厚生労働省の研究会が報告書を出したところまで来ています。そこに書かれた結論は、法律で禁止する、ではありませんでした。「社内ルールを労使で検討していくことが必要」——つまり、それぞれの職場で決めてください、という段階です。
「じゃあ2026年から違法になる、というのは?」
厚生労働省が国会に提出した法律案の一覧を見ると、2026年に出されたものの中に、労働時間についての労働基準法の改正案は入っていません。少なくとも今の時点で、休日の連絡そのものを禁じる法律は、できていないということです。
だから、「休日の連絡は違法です」と言い切る記事も、「まったく問題ありません」と言い切る記事も、どちらも少しずつ外しています。
では法律はこの件について何も言っていないのか。そんなことはありません。線は、まったく別のところに引かれています。
返すのは「やるかどうか」ではなく「いつやるか」
休日に連絡が来たとき、私たちはつい「返すか、返さないか」の二択で考えます。この二択がしんどいのです。返せば休みが終わり、返さなければ月曜が怖い。どちらを選んでも損をする。
そこで、通知を開いたら、内容を3つに仕分けてください。
- 見るだけで済むもの(共有・報告・「念のため」の転送)
- その場で終わる返事(日程の確認、置き場所、あれどうなった、の一言)
- 時間のかかる作業(資料を作る、数字を調べる、誰かに確認する)
上の2つは、やってしまっていいと思います。15秒で終わることを我慢するほうが、かえって頭に居座り続けます。
問題は3つ目です。ここで返す言葉を、あらかじめ決めておきます。
「承知しました。◯◯については、出社してから着手します」
これだけです。
よく見てください。この一行は、断っていません。無視もしていません。そして、動いてもいません。返しているのは、着手する時期だけです。
しかも、この返し方には副産物があります。急ぎ度の判定を、自分でしなくてよくなるのです。本当に今日中でなければ困るなら、「いや、今日中にお願いしたい」と返ってきます。返ってこなければ、急ぎではなかった。判定を相手に返せるということです。
「そんな返し方をして、大丈夫なんだろうか」
そう思われたと思います。ここから3つ、この返し方が理にかなっている理由をお伝えします。ひとつめは、法律が引いている線の位置の話です。
法律が禁じているのは、連絡ではなく「ただ働き」
労働基準法をたどっていくと、休日について定めている条文はこう並んでいます。
- 第35条|毎週少なくとも1回の休日を与えなければならない
- 第36条|休日に労働させるには、労使で協定を結び、行政官庁に届け出なければならない(いわゆる36協定)
- 第37条|休日に労働させた場合は、割増賃金を支払わなければならない
割増の率は法律ではなく政令で決まっていて、法定休日の労働は3割5分以上とされています。
この並びを見ると、法律が何を気にしているのかが見えてきます。連絡が来たかどうかではなく、あなたが働いたかどうかです。
休日にあなたが実際に作業をしたなら、それは休日労働です。協定と割増賃金が必要になります。会社がそれをしないまま働かせていれば、そこで初めて「違法かどうか」という話が立ち上がる。逆に、連絡が届いただけで、あなたが何もしていないなら、法律の出番はありません。
つまり、線は通知が鳴った瞬間ではなく、あなたが動いた瞬間に引かれています。
だから「出社してから着手します」という返し方は、感情をこらえた妥協ではありません。法律が線を引いている場所と、そのまま重なっているのです。動く作業を平日に寄せる。それだけで、あなたの休日は法律の外側に戻ります。
「気にしなくていいよ」と言われていても、動けば労働時間
ふたつめは、少し意外かもしれない話です。
厚生労働省のガイドラインは、労働時間をこう定義しています。
「労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいい、使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間に当たる」
そして、こうも書かれています。労働時間に当たるかどうかは、労働契約や就業規則の定めのいかんによらず、客観的に定まる。
テレワークについてのガイドラインには、もっと踏み込んだ一文があります。事前の申告がなかったり、申告に対して許可が出ていなかったりした場合でも、業務量が過大であったり、明示・黙示の指揮命令があったと解しうる場合には、労働時間に該当します、と。
ここが大事なところです。
上司が「休みの日は気にしなくていいからね」と言っていても、実際には対応しないと回らない状況なら、あなたが動いた30分は労働時間になり得ます。やさしい言葉は、労働時間があったかどうかを変えないのです。
同じテレワークのガイドラインには、こんな一文もあります。時間外・休日・所定外深夜のメール等に対応しなかったことを理由として不利益な人事評価を行うことは、適切な人事評価とはいえない。これはテレワークをしている人について書かれたものですが、国がどちらを向いているかは、はっきり読み取れます。
「たかが15分の話で、大げさじゃないか」
15分を請求しましょう、という話をしたいのではありません。知っておくと、返し方が変わるという話です。「本当は動かなくていいことになっている」と分かっていれば、「出社してから着手します」の一行は、わがままではなく、ただの事実の共有になります。指が止まらなくなる。
国も、休日の連絡をひとかたまりでは扱っていない
みっつめは、あなたが線を引くことが、まったく特殊ではないという話です。
先ほどの研究会の報告書には、こんな一文があります。
「本来、労働契約上、労働時間ではない時間に、使用者が労働者の生活に介入する権利はない」
そのうえで報告書は、勤務時間外の連絡を一つの塊として扱っていません。出勤しなければならない具体的な仕事が発生するもの、電話などで対話をしなければならないもの、メールが送られてくるだけのもの——さまざまな段階がある、と整理したうえで、どこまでが許容でき、どこからは拒否できることにするのかを、労使で検討していく必要がある、と書いています。
連絡を3つに仕分ける、というこの記事のやり方は、国の資料の考え方をそのまま個人の手元に持ってきたものです。
では、その「労使で決める」はどれくらい進んでいるのか。厚生労働省の審議会に出された調査を見ると、勤務時間外や休日の社内連絡についてのルールで、いちばん多い回答はこれでした。
「特段ルール等は整備しておらず、現場に任せている」——36.8%
3社に1社以上が、決めていません。決まっていないから現場に落ちてきて、現場では、受け取ったあなたの指先で決まっている。
働く人の側の回答も見てみます。勤務時間外の社内連絡について「対応したくない」が38.0%。ここまでは想像どおりです。ただ、いちばん多かったのは「その他」で、その中身は「案件の重要度によって対応要否が分かれる」「対応する・しないの裁量があるため対応しなくてよい」といったものでした。
つまり、多くの人が「全部応じる」でも「全部拒む」でもないところに立っている。二択で答えられなかったのは、あなただけではないということです。
「出社してからやります」と返した、あの休日
——今までのあなた。
休日、通知が鳴る。開くかどうか迷って、結局開く。読んでしまった以上、返さないわけにいかない気がして、パソコンを立ち上げる。気づけば昼が終わっている。家族に「休みじゃなかったの」と言われて、返す言葉がない。
——「いつやるか」だけを返すようになった、これからのあなた。
通知を開く。内容を見て、20秒だけ考える。「これは、その場で終わるか?」
終わるものは、その場で返して閉じる。終わらないものには、一行だけ返す。
「承知しました。資料は出社してから着手します」
スマホを置く。そこで、休日に戻れます。
少し、私自身の話をさせてください。
私も休日に仕事の連絡を受けたことがあります。中身を見て、すぐに終わるもの——メールの返信で済むものは、その場でやってしまいました。ただ、時間のかかる作業もあった。それについては「出社してから対応します」と伝えて、その日は開きませんでした。
そのあと、どうなったか。返信は、来ませんでした。出社した日も、そのことについて特に何も言われませんでした。
拍子抜けするような結末ですが、そこで分かったことがあります。あれは、大した問題でも急ぎの確認でもなかったのです。もしかしたら、上司の思いつきの連絡だったのかもしれない。
連絡の重さは、受け取った側が勝手に決めているだけで、送った側でも決まっていないことがある。「出社してから着手します」と返してみると、それが見えます。
「でも、返事が来なかったのは、内心よく思われていなかったからでは」
その不安は分かります。ただ、あなたが返したのは拒否ではありません。着手する時期です。仕事を引き受けたうえで、いつ手をつけるかを先に伝えている。これは連絡を無視した人ではなく、段取りを返した人の振る舞いです。
次の通知が鳴ったら、決めることはひとつだけ
休日の連絡が来ること自体は、あなたには止められません。会社のルールも、法律も、明日には変わらない。
でも、返し方は今日から変えられます。
次に休日の通知が鳴ったら、開いたあとに20秒だけ使ってください。決めることは、ひとつだけです。
これは、その場で終わるか。
- 終わるなら、その場で返して閉じる
- 終わらないなら、「出社してから着手します」と返して閉じる
休日にあなたを守るのは、法律の知識でも、我慢でもありません。「いつやるか」を、自分から先に言う一行です。
休みの日を返してもらうために、誰かと戦う必要はありません。時期を返すだけで、その日は自分のものに戻ります。
なお、この記事は条文と公的資料で「どこに線が引かれているか」を整理したものです。実際に休日労働の割増賃金が支払われるべきかどうかなど、個別の事情については、勤務先の就業規則を確認したうえで、お住まいの地域の労働基準監督署(相談は無料です)にご相談ください。
休日にも連絡が来ること自体を減らしたい方は、休日も仕事連絡が来て休めないときの対処法|線を引けるのは、自分だけもあわせてどうぞ。こちらは、連絡が来る前に伝えておく話です。
参考文献
労働基準法(昭和22年法律第49号)第35条・第36条・第37条|e-Gov法令検索
労働基準法第三十七条第一項の時間外及び休日の割増賃金に係る率の最低限度を定める政令(平成6年政令第5号)|e-Gov法令検索
厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1月20日)|PDF
厚生労働省「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」|PDF
厚生労働省「労働基準関係法制研究会 報告書」(令和7年1月8日)|PDF
厚生労働省 労働政策審議会労働条件分科会(第204回)資料No.2「労働時間法制の具体的課題について」(令和7年10月27日)|PDF
厚生労働省「第221回国会(令和8年特別会)提出法律案」|厚生労働省
