仕事のミスを減らす方法|急ぐときこそ、1工程ずつ確認する

仕事の進め方・タスク管理

「あれ、できていない」

完成したはずのものが、完成していません。

手順を上から順に、指でなぞって確かめていきます。——1つ、飛んでいました。

やった記憶はあります。というより、やらなかった記憶がありません。

戻ってやり直すしかない。急いでいたから省いたのに、結局その何倍も時間がかかる。周りに謝りながら、頭の中では同じ言葉が回っています。

「自分は注意力がない」「集中力が続かない」「この仕事、向いてないのかもしれない」

でも、少しだけ思い出してみてください。あなたがその手順を飛ばしたのは、初めてやる作業でしたか。

おそらく、違うはずです。初めての作業なら、手順書を開いていました。一つずつ見ながらやっていました。ミスが出るのは、たいてい「もう覚えた」作業のほうです。

順番は「注意力がない → ミスをする」ではありません。「急ぐ → 確認を省く → 記憶に頼る → 抜ける」です。

性格を直そうとしても効かないのは、原因がそこにないからです。

厚生労働省の令和5年「労働安全衛生調査(実態調査)」によると、仕事や職業生活で強い不安・悩み・ストレスを感じている人は82.7%。その内容として最も多かったのは「仕事の失敗、責任の発生等」で39.7%でした。仕事の量(39.4%)や対人関係(29.6%)より上です。

ミスを引きずってしまうことは、めずらしい出来事ではありません。いちばん多くの人がつまずいている場所です。

手順書を開いて、1工程終わるごとに確認する

やることは一つです。

手順書を開いたまま作業して、1工程終わるごとに目を戻す。

記憶でやらない。これだけです。

ここで大事なのは、「全部やってから見返す」ではないということです。最後にまとめて確認しても、飛ばした工程は見つかりません。なぜなら、飛ばしたことに気づいていないからです。自分の記憶をたどって確認する限り、「やったつもり」の記憶がそのまま返ってくるだけです。

1工程ごとに手順書へ目を戻す。照らす相手を、自分の記憶ではなく紙にする。それだけで、抜けはその場で見つかります。

もし手元の手順書がわかりにくくて、開いても結局わからないなら、自分用に書き直したものを使ってかまいません。そのやり方は仕事が向いてないと感じるときの対処法|覚えられないなら、覚えなくていい形に変えるにまとめています。

1工程ごとの確認が、なぜ時間を節約するのか

理由① 慣れている作業ほど、手順は抜ける

イギリスの安全衛生庁(HSE)は、人のミスを種類ごとに分けて説明しています。そのうち「ラプス」と呼ばれるものの例として挙げられているのが、「手順のステップを実行し忘れること」です。

そして、こうしたミスが起きる場面についてHSEはこう書いています。これらは「慣れた作業の最中に」起こる、と。よく練習された作業では、人は自分の動作に意識を向けなくなる。だから抜ける。

つまり、手順が飛ぶのは知らないからではありません。知っているからです。

さらに重要なことが書かれています。HSEは、この種のミスは訓練だけでは防げないとしたうえで、仕組みの側を変えれば頻度を減らせると述べています。

「今度から気をつけます」が効かない理由が、ここにあります。気をつけるのは訓練の側です。減らせるのは、仕組みの側です。手順書を開いておくというのは、あなたの注意力を上げる話ではなく、注意力に頼らなくて済むようにする話です。

理由② 急ぐと、速さだけが上がって、正確さが落ちる

時間に追われているとき、人の作業がどう変わるのかを調べた研究があります。Szalmaらは125本の研究から827件の結果を集めて分析し、時間的なプレッシャーがかかったときに何が起きるかをまとめました(Szalma, Hancock & Quinn, 2008)。

結果は、はっきりしていました。時間に追われると、作業の速さは実際に上がります。その一方で、正確さは落ちます。

ここが厄介なところです。急いでいるとき、「今日は速い」というあなたの体感は間違っていません。本当に速くなっています。落ちているのは正確さのほうだけで、そちらは手を動かしている最中には見えません。

だから、急いでいるときほど「確認しなくても大丈夫」に感じます。感覚が正しく働いていないのではなく、感覚が速さしか拾っていないのです。

急いでいるときこそ確認する、というのは根性論ではありません。いちばん抜けやすい状態にいるからこそ、外から照らす必要があるという話です。

理由③ 「1つずつ確認する」は、実際にミスを減らしている

確認したところで、そんなに変わるのか。そう思うかもしれません。

世界8都市の8つの病院で行われた研究があります。手術の前後に、決められた項目を一つずつ声に出して確認する——それだけの手順を導入しました。結果は医学誌に報告されています(Haynes et al., New England Journal of Medicine, 2009)。

導入前の3,733件と、導入後の3,955件を比べると、

  • 合併症が起きた割合は 11.0% → 7.0%
  • 亡くなった割合は 1.5% → 0.8%

新しい機械を入れたわけでも、人を増やしたわけでもありません。一つずつ確認する手順を足しただけで、この差が出ています。

しかも相手は、毎日その作業をしている専門家たちです。経験でカバーできなかったものを、確認がカバーした。そう読むことができます。

熟練した人がやっても効果が出るのなら、慣れてきたあなたの作業でも同じことが起きます。

私の場合|手順を一つ飛ばして、物ができあがらなかった

製造業にいた頃の話です。

その日は急いでいました。手順は頭に入っていましたし、何度もやっている作業でした。だから手順書は開きませんでした。確認もしませんでした。

急いでいた。記憶に頼った。確認しなかった。この3つが重なりました。

できあがったものを見ると、物になっていませんでした。工程を一つ、飛ばしていたのです。当然、作り直しです。

そこから変えたのは、たった一つでした。手順書を見ながら作業して、毎工程、確認する。

「ここは重要だから確認する、ここは大丈夫」という区別はしませんでした。全工程を同じ密度で確認していました。重要かどうかを自分で判断した時点で、また記憶に頼ることになるからです。

結果、ミスは減りました。

そして今、あのとき自分がたどり着いたことを一言で言うなら、これになります。

確認する時間より、ミスして作り直す時間のほうが長い。

だから、急いでいるときこそ確認するようになりました。急いでいるときに確認を省くのは、時間を節約しているように見えて、いちばん高い買い物をしているのです。

急ぎの日ほど、作り直しが出なくなる

今までは、急ぎの日ほど作り直しが出ていました。省いた時間の何倍も取り返され、結果的に遅くなる。そのうえ「また自分だ」と落ち込んで、次の作業にも引きずる。

これができるようになると、まず急ぎの日でも手順書を開けるようになります。開くのに数秒しかかからないと分かるからです。

抜けは、その工程の中で見つかります。物ができあがってからではなく、次に進む前に気づく。だから作り直しになりません。

そして何より、ミスをしたときの受け取り方が変わります。

「自分は注意力がない人間だ」ではなく、「あそこで手順書を見ていなかったな」に変わる。人格の話が、手順の話に戻ります。手順の話なら、明日から直せます。

ミスがゼロになるわけではありません。でも、ミスをしたあとに自分を疑わなくて済むようになります。

抜けるのは、知らないからではなく慣れているから

仕事のミスが多いとき、原因を自分の性格に求めるのは、少しだけ早いかもしれません。

手順が抜けるのは、知らないからではなく慣れているからです。そして急いでいるときは、速さだけが上がって正確さが落ちている——いちばん抜けやすい状態にいます。

だからこそ、照らす相手を自分の記憶から紙に変えます。手順書を開いたまま作業して、1工程終わるごとに目を戻す。それだけです。

明日、急いでいる作業が来たら、手順書を1回だけ開いてみてください。数秒で終わります。

急ぐ日ほど、省きたくなります。でも思い出してください。確認する時間より、作り直す時間のほうが長いのです。

参考文献

  • 厚生労働省「令和5年 労働安全衛生調査(実態調査)」mhlw.go.jp
  • Health and Safety Executive (UK). Human failure types. hse.gov.uk
  • Szalma, J. L., Hancock, P. A., & Quinn, S. (2008). A meta-analysis of the effect of time pressure on human performance. Proceedings of the Human Factors and Ergonomics Society Annual Meeting, 52(19), 1513–1516. doi:10.1177/154193120805201960
  • Haynes, A. B., Weiser, T. G., Berry, W. R., et al. (2009). A surgical safety checklist to reduce morbidity and mortality in a global population. New England Journal of Medicine, 360(5), 491–499. doi:10.1056/NEJMsa0810119
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