人が辞めて、仕事が降ってきた|つらいのは量ではなく、終わりが見えないこと

人が辞めて、仕事が降ってきた|つらいのは量ではなく、終わりが見えないこと 上司・職場の人間関係

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先輩が辞めた。

引き継ぎの説明らしい説明もないまま、その人がやっていた仕事が、少しずつ自分のところへ流れてきます。「これ、お願いできる?」と渡されるものもあれば、誰も手をつけないので結局こちらがやることになったものもある。断る隙は、ありませんでした。

気がつくと、チームの空気は重く、引き継ぎは抜けだらけで、周りもどこか不安そうにしている。その全部が、同時に来ています。

「なんで自分ばっかり」と思う。でもそれを口にしたら、心が狭い人だと思われる気もする。だから言わないまま、また一日が終わる。

この記事は、その状態に区切りをつけるための話です。仕事を減らす方法ではありません。

つらいのは量ではなく、終わりが見えないこと

先に書いておきます。あなたが弱いから、あるいは要領が悪いから苦しいのではありません。

同じ量の仕事でも、「あと1か月」と分かっているものと、「いつまで続くか分からない」ものでは、こたえ方がまるで違います。しわ寄せがきついのは、たいてい後者だからです。

そして、その「いつまで」は、待っていても誰かが教えてくれるものではありません。だから、こうします。

この状態を自分がいつまで引き受けるか、期限を自分で決める。

「年内いっぱい。それで欠員が埋まらなければ、別の手を考える」。カレンダーに書くのは、その1行だけです。

注意してほしいのは、これは「それまでに解決していますように」という願いではないということです。状況が変わるかどうかは相手次第ですが、その日に自分が決める、という約束なら、今日ひとりで置けます。

なぜ、しわ寄せは量以上にこたえるのか

理由は3つあります。どれも、あなたの性格や能力の話ではありません。

理由①:説明がない時間ほど、悪いほうへ想像が進む

バーガーとカラブリーズは、人が相手や状況について分からないことを減らそうとする性質を、コミュニケーション研究の中心に据えました。不確実性低減理論と呼ばれます。分からない状態は、それ自体が落ち着かないのです。

そして、説明がないまま時間が過ぎると、人はその空白を自分で埋めようとします。埋める材料が悪い想像しかないとき、話は勝手に悪いほうへ進みます。「このまま補充されないのでは」「来年もこの状態なのでは」と。

実際にそうなるかは分かりません。でも、分からないまま置かれている時間そのものが、負担になっています。

理由②:役割が曖昧なこと自体が、負担になる

リゾーらは、組織で働く人のストレス源を調べる中で、役割の曖昧さ——自分に何がどこまで求められているのか分からない状態——を測る尺度を作りました。ジャクソンとシュラーは、その後の研究をまとめ、役割の曖昧さが仕事の満足度や緊張と結びついていることを示しています。

しわ寄せが厄介なのは、ここです。「自分の担当かどうか分からない仕事」は、やってもやらなくても消耗します。やれば「なぜ自分が」と思い、やらなければ「放置していると思われないか」と気になる。どちらを選んでも、片づかない。

量が2割増えたことよりも、境界が引かれていないことのほうが、実はこたえています。

理由③:辞めた人の仕事は、上司にも全体像が見えていない

「上司はなぜ、ちゃんと割り振ってくれないんだろう」と思うかもしれません。

ただ、野中郁次郎が示したように、仕事の知識の多くは言葉にされないまま個人の中にあります(暗黙知)。辞めた人が何をどうやっていたかは、本人の頭の中にしかなかった。だから上司にも、そもそも全体像が見えていないことがあります。

意地悪でも怠慢でもなく、説明できる材料が誰の手元にもない。ということは、待っていても説明は来ません。

3つを合わせると、こうなります。分からない状態は負担になる。境界がないことは量以上にこたえる。そして、待っていても線は引かれない。

やること|期限を1つ、カレンダーに置く

決めるのは、2つだけです。

  • いつまで引き受けるか:3か月後の月末、年内いっぱい、次の期の始まり。キリのいい日で構いません
  • その日に何を決めるか:「状況が変わっていなければ、別の手を考える」。これだけ書いておけば十分です

カレンダーに1行入れて、今日はおしまいです。誰にも言わなくてかまいません。

なお、上司に聞ける関係なら、「これは欠員が埋まるまでですか」と一度聞いてみるのも手です。ただし、聞くこと自体を前提にはしないでください。理由③のとおり、答えが返ってこないことは十分にあります。返ってこなくても進められるように、先に自分の期限を置いておく——順番はこちらです。

聞くとしたら、全体の場ではなく1対1のときに。朝礼や会議で持ち出すと、遠回しな不満に見えてしまいます。そのとき、降ってきた仕事を口頭で3つ挙げられるようにしておくと話が早く進みます。一覧を作る必要はありません。3つで十分です。

「いつまで」を置くと、量は同じでも軽くなる

——今までのあなた。

朝、辞めた先輩の分のメールを開きながら、ため息をつく。

「(これ、いつまで続くんだろう……)」

終わりが見えないので、今日の分を片づけても達成感がない。「なんで自分ばっかり」と思う自分のことも、少し嫌になる。

——カレンダーに1行を置いた、これからのあなた。

仕事の量は、まだ何も変わっていません。それでも、あなたはこう思えます。

「(とりあえず、年末までだ)」

期限があると、同じ量でも抱え方が変わります。終わりのない我慢ではなく、期限つきの引き受けに変わるからです。そして年末が来たとき、あなたは我慢を続けるかどうかを、初めて自分で選べます。

私自身は、この状況を引き継がれる側として経験しました。前任者が何をやっていたかの一覧はどこにもなく、聞きたくても本人はもういない。何も説明されないまま仕事だけが来て、それについて誰も何も言わない時期が続きました。あのときいちばんしんどかったのは、正直なところ仕事の量ではありません。この状態が特別なのか、これがずっと続くのかが、誰にも分からなかったことでした。

今日やること

カレンダーを開いて、1行だけ入れてください。

「◯月◯日:この状態を続けるか決める」

日付は、キリがよければいつでもかまいません。今日はそれだけで十分です。

期限の日が来たら、3つのうちどれかを選ぶ

決めた日が来て、状況が変わっていなかったとします。

それは、あなたの工夫が足りなかったからではありません。その前提で回すと決まっていた、ということです。ここから先は、工夫の問題ではなく選ぶ問題になります。選択肢は3つあります。

  1. 社内で、別の手を打つ。配置転換の希望を出す。増員をもう一度要求する。担当の線を引き直してもらう。「しんどいので減らしてください」ではなく、「この体制をいつまで続けますか」と聞くほうが話が進みます
  2. 引き受け方を変える。全部ではなく、一部に絞る。「これは続けます。こちらは戻します」と、自分から線を引いてしまう
  3. 外に出る。この職場では変わらないと判断するなら、選択肢のひとつです

まずは1と2から考えてください。ほとんどの場合、そちらのほうが現実的です。

そのうえで3を考えるとき、ひとつだけ困ることがあります。いまの状態が「よくあること」なのか「さすがにおかしい」のかが、社内にいると分からないのです。周りも同じように抱えていれば、それが普通に見えてしまうからです。

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ただし、これは期限の日が来てからの話です。今日やることは、カレンダーに1行入れることだけで足ります。

つらかったのは、量ではなかった

分からない状態は、それだけで負担になります。境界が引かれていないことは、量以上にこたえます。そして、待っていても線は引かれません。

だから、線は自分で引きます。仕事の量ではなく、引き受ける期間のほうに。

今日、カレンダーに1行だけ置いてください。それだけで、終わりのない我慢が、期限つきの引き受けに変わります。

参考文献

  • Berger, C. R., & Calabrese, R. J. (1975). Some explorations in initial interaction and beyond: Toward a developmental theory of interpersonal communication. Human Communication Research, 1(2), 99–112. doi:10.1111/j.1468-2958.1975.tb00258.x
  • Rizzo, J. R., House, R. J., & Lirtzman, S. I. (1970). Role conflict and ambiguity in complex organizations. Administrative Science Quarterly, 15(2), 150–163. doi:10.2307/2391486
  • Jackson, S. E., & Schuler, R. S. (1985). A meta-analysis and conceptual critique of research on role ambiguity and role conflict in work settings. Organizational Behavior and Human Decision Processes, 36(1), 16–78. doi:10.1016/0749-5978(85)90020-2
  • Nonaka, I. (1994). A dynamic theory of organizational knowledge creation. Organization Science, 5(1), 14–37. doi:10.1287/orsc.5.1.14

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