キャリアが不安なときの対処法|不安の正体は、把握していない自分

メンタル・気持ちの整え方

ふとした瞬間に、胸がざわつく。「このままでいいんだろうか」と。

SNSを開けば、同世代が転職や昇進で活躍している。転職サイトを眺めてみるけれど、応募する勇気は出ずにそっと閉じる。資格でも取ったほうがいいのかなと思いながら、何から手をつければいいかわからない——。

そんなキャリアの不安を抱えているなら、まず知ってほしいことがあります。その不安の正体は、「将来が見えないこと」ではありません。「自分に何ができるかを、自分で把握していないこと」です。

武器の在庫を確認しないまま、「戦えるだろうか」と心配している状態。それがキャリアの不安の、本当の姿です。

何を隠そう、私自身がそうでした。当時の私は仕事に手詰まり、それなのに上司はいつも忙しそうで相談もしづらく、ひとりでどうしようもなくなっていました。「この先、自分はやっていけるんだろうか」——不安だけが膨らんでいくなかで、藁にもすがる思いで手を伸ばしたのが、この「書き出す」という方法だったのです。

解決策:仕事の棚卸しをして「できることリスト」を作る

やることはシンプルです。これまでの仕事を振り返って、紙に書き出す。それだけです。

  1. これまで担当した仕事・案件を、思いつくまま10個書き出す
  2. それぞれについて「やったこと・工夫したこと・人から言われたこと」を1行ずつ添える
  3. 最後にそれを「〜ができる」の形に言い換える

「棚卸しするほどの実績なんてない」と思うかもしれません。でも、書くのは実績や成果でなくていいのです。「新人の質問に答えていた」は「人に説明ができる」。「毎月の報告資料を作っていた」は「情報を整理してまとめられる」。あなたが当たり前にやってきたことが、そのまま武器の名前に変わります。

私の場合|「できないこと」まで書き出したら、楽になった

私が実際にやった棚卸しには、少しだけアレンジが入っています。書き出したものを、3つに分類したのです。

  • 自分にできること
  • 人に手伝ってもらえば、できること
  • 自分には、できないこと

意外に思われるかもしれませんが、一番効いたのは3つ目でした。「できないこと」が紙の上ではっきりした瞬間、気持ちがすっと楽になったのです。それまでは「全部できない気がする」という漠然とした感覚に飲まれていたのに、書いてみれば、本当にできないことはほんの一部。あとは「できること」と「手伝ってもらえばできること」だったのですから。

そして、分類には続きがあります。「手伝ってもらえばできること」と「できないこと」は、人に頼ると決めました。頼み方はシンプルで、「ここは能力的に自分ではできません」「時間が足りません」と正直に伝えるだけ。カッコをつけずに事実を渡すと、人は案外、力を貸してくれます。手詰まりだった仕事は、そこから動き始めました。

棚卸しをすると、不安が輪郭を持つ

理由①:「自分はやれる」の最大の源泉は、過去の達成経験(自己効力感)

心理学者アルバート・バンデューラは、「自分はやれる」という感覚——自己効力感——を研究し、その最大の源泉は「過去の達成経験」であることを示しました。

ここで大事なのは、経験は思い出せる形になっていないと力を持たないということ。あなたの中に達成経験は確実に積もっています。棚卸しは、その埋もれた経験を「引き出せる形」にする作業なのです。

理由②:ドラッカー「強みの上に築け」

マネジメントの父ピーター・ドラッカーは、キャリアについてこう断言しています。

「強みの上に築け」

何者になれるかを決めるのは、弱みの克服ではなく、強みの把握だということです。そして強みは、探しに行くものではなく、これまでの仕事の中にすでに埋まっているもの。棚卸しは、ドラッカーの言う「築く土台」を見つける作業です。

理由③:不安は「漠然」に宿る

漠然とした不安は、漠然としているから怖いのです。

書き出してみると、「できること」と一緒に「足りないもの」も具体的に見えてきます。「マネジメント経験がないな」「数字で語れる実績が欲しいな」——そうなればもう、それは不安ではなく「やることリスト」です。正体の見えたお化けは、もう怖くありません。

「意外と、あるじゃないか」と言える日が来る

——今までのあなた

夜、転職サイトを開いては、応募ボタンを押せずにそっと閉じる。

「(自分には、何もないのかもしれない……)」

漠然とした不安に飲まれたまま、また明日が来る。

——棚卸しができた、これからのあなた

週末の30分で書き出したリストを眺めて、あなたはたぶん、こうつぶやきます。

「意外と、やってきたんだな」

何もないと思っていた年月に、ちゃんと中身があったことに気づく。転職サイトを見る目も変わります。怯えながら眺めるのではなく、「自分のできることが活きる求人はどれか」という目で、市場と自分を照合できるようになるのです。

私自身、リストを作ってからは「できること」が自信になり、「できないこと」は不安ではなく“頼るためのリスト”になりました。転職するにしても、今の会社で頑張るにしても、その判断はもう「漠然とした不安」からではなく、「把握した自分」から下せます。

不安の正体は、把握していない自分

キャリアの不安を消すのに、すごい実績も資格もいりません。まず必要なのは、すでに持っているものを知ることです。

今週、30分だけ時間を取ってください。これまで担当した仕事を10個、書き出す。それだけで、漠然としていた不安は「具体的な自分」に変わり始めます。武器の在庫がわかれば、戦い方は考えられるのですから。

参考文献

  • Bandura, A. (1977). Self-efficacy: Toward a unifying theory of behavioral change. Psychological Review, 84(2), 191–215. doi:10.1037/0033-295X.84.2.191
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