「上司から仕事を頼まれたけど、何をどこまでやればいいかわからない」
「とりあえず進めて提出したら『これじゃない』と言われた」
「質問しようにも、何を聞けばいいかすらわからない」
「また時間をかけて作ったのに、ゼロからやり直しか…」
「自分は仕事のセンスがないのかもしれない」
一生懸命やったのに「的外れ」と言われる。その繰り返しが続くと、やがて「自分は仕事ができない人間なんだ」と自信をなくしていきます。
でも、それはあなたのせいではありません。
上司やクライアントは「自分の頭の中にある完成形」を言葉にせずに依頼してくることが多い。受け取る側が「何となく」で動かざるを得ない状況が、最初から生まれているのです。
今日は一つだけ、やり方を変えてみてください。
仕事を受けた瞬間に「完成形のイメージ」を一言確認する
私自身、進め方がわからないまま抱え込んで手が止まる、ということを何度も繰り返してきました。変わったのは、仕事を受け取るその場で「これは何のためで、どんなアウトプットになればいいですか」と聞くようにしてからです。たった一言ですが、あの「どこに向かえばいいかわからない」時間が消えました。
「そんな一言聞くだけで変わるの?」
そう思うかもしれません。でも、これには理由が3つあります。
理由① 依頼する側は、自分の頭の中が見えていると思っている
認知科学に「知識の呪い」という概念があります。
知識や経験がある人ほど、相手も同じことを知っていると無意識に思い込んでしまうという現象です。
上司があなたに仕事を依頼するとき、頭の中には完成形のイメージがあります。でもそれを言語化しないまま「よろしく」と言ってしまう。悪意はありません。ただ、自分には見えているから、相手にも見えていると思っているだけです。
だから、確認しないとズレるのは当たり前。あなたの理解力の問題ではありません。
理由② 早い段階の確認は、むしろ好印象を与える
「確認したら『そんなこともわからないのか』と思われそう」
その心配はわかります。でも実際は逆です。
コンサルティングの世界では「最初に確認する人ほど優秀」と言われています。仕事を受けた直後の確認は、「ゴールを意識して動ける人だ」という印象を与えます。
ズレた成果物を出してから「実はこういうものを想定していました」と言われるより、最初に一言確認する方が、よほど信頼されます。
理由③ 先に合わせるほうが、あとで直すより早い
会話の研究に「共通基盤」という考え方があります。話し手と聞き手が「同じものを指している」と互いに確信できている状態のことで、クラークとブレナンは、人はこの状態を作るための労力を、二人ぶんの合計で最小にしようとすると説明しました。
裏を返せば、最初に合わせておかなかったぶんは、あとで誰かが払うことになります。時間をかけて作った資料を「これじゃない」と言われるのは、あなたにとっても上司にとっても損です。最初の一言が、その無駄を丸ごと防ぎます。
依頼を受けるときの不安が、小さくなる
仕事を受けた瞬間に「完成形のイメージ」を一言確認する。それを続けていくと、依頼を受けるときの不安そのものが小さくなっていきます。
最初は確認すること自体に勇気がいるかもしれません。それでも、「これで合っていますか」と一言添える習慣がつくと、ゴールが見えないまま手を動かし始めていた頃とは、仕事への向き合い方が変わってきます。
やり直しの回数が減り、「せっかく作ったのに違った」というやるせなさを感じることも少なくなっていきます。上司や先輩から「筋がいいね」「仕事が早いね」と言われる機会が増え、確認することは弱さではなく、力になっていきます。
この習慣は、仕事を受けるときだけでなく、人に何かを頼まれるあらゆる場面で役立つようになります。
わからないまま抱え込む働き方から、わからないことを確認しながら前に進む働き方へ。その変化は、あなたの仕事の速さと信頼、両方を底上げしていきます。
確認する仕組みを、持っていなかっただけ
仕事の進め方がわからないのは、あなたの能力の問題ではありません。
確認する仕組みを持っていなかっただけです。
次に仕事を頼まれたら、受けた瞬間にこう聞いてみてください。
「完成したときのイメージを一言で教えてもらえますか?」
それだけで、あなたの仕事の進め方は変わり始めます。
参考文献
- Camerer, C., Loewenstein, G., & Weber, M. (1989). The curse of knowledge in economic settings: An experimental analysis. Journal of Political Economy, 97(5), 1232–1254. doi:10.1086/261651(著者公開PDF)
- Clark, H. H., & Brennan, S. E. (1991). Grounding in communication. In L. B. Resnick, J. M. Levine, & S. D. Teasley (Eds.), Perspectives on socially shared cognition (pp. 127–149). American Psychological Association. 著者公開PDF

