「上司が忙しそうで、今日も話しかけられなかった」
「席に戻ってきた瞬間を狙っていたのに、また別の人に捕まってしまった」
「チャットで送ろうかとも思ったけど、文章だと失礼な気がして、下書きのまま消してしまった」
相談したいことはあるのに、口頭で話しかけるタイミングがどうしても見つからない。
そうしているうちに仕事は止まり、「早く相談しなきゃ」という焦りだけが積み重なっていきます。
私自身、いつもピリピリしていて話しかけづらい上司の下で働いていたことがあります。口頭のタイミングがつかめないので、返信しやすいようにと、要件と確認内容を簡素化したメールやチャットを何度も送りました。
正直に言うと、返信はほとんど来ませんでした。「やっぱりチャットじゃダメか」と、当時は落ち込んだものです。でも、のちに気づきます。あのチャットは、無駄になっていませんでした。その話は、あとでお話しします。
でも、あなたは大事なことを一つ思い込んでいるかもしれません。
それは、「相談は口頭でしなければいけない」という思い込みです。
今日は一つだけ、やり方を変えてみてください。
相談は口頭を待たず「チャットで先に送っておく」だけでいい
送り方のコツは、2つだけです。
- 最初の1行に、相談の結論を書く(例:「A社への見積もりの件で、判断をご相談させてください」)
- 最後に「お手すきのときにご確認いただければ大丈夫です」と添える
たとえば、こんな一通です。
「A社への見積もりの件でご相談です。値引きの上限を10%までとするか迷っています。私は10%で提示したいと考えていますが、問題ないでしょうか。お手すきのときにご確認いただければ大丈夫です」
「そんなことで、忙しい上司から返事なんて来るの?」
そう思うかもしれません。でも、これには理由があります。
理由① 口頭の話しかけは、上司の集中を中断させてしまう
カリフォルニア大学のグロリア・マーク教授の研究によると、一度中断された作業に完全に戻るには、平均23分かかるとされています。
「ちょっといいですか」という口頭の相談は、たとえ3分で終わっても、上司の仕事時間を大きく削っているのです。あなたが忙しい上司に話しかけづらいのは、無意識にこのことを感じ取っているからかもしれません。
一方チャットなら、上司は自分の作業が一段落したタイミングで読めます。チャットは相手の集中を奪わない、忙しい人にこそやさしい相談方法なのです。
理由② 書くことで、相談の質そのものが上がる
哲学者フランシス・ベーコンは、こんな言葉を残しています。
「書くことは人を正確にする」
頭の中でモヤモヤしていた相談も、文章にしようとすると「結局、何に困っているのか」「上司に何をしてほしいのか」を整理せざるを得ません。
つまり、チャットで相談を書くことは、それ自体が相談の準備になっているのです。口頭だとしどろもどろになりがちな人ほど、この効果は大きくなります。
理由③ 文字の相談は「記録」として残る
口頭の相談は、その場で消えていきます。忙しい上司なら、答えた内容を忘れてしまうことすらあります。
チャットなら、相談の内容も上司の回答も、記録として残ります。「言った・言わない」のすれ違いが起きず、あとから何度でも見返せる。上司にとっても、正確な情報をもとに落ち着いて答えられるというメリットがあるのです。
返信が来なくても、チャットは無駄にならない
先ほど、私の上司からは返信がほとんど来なかったと書きました。「じゃあ送っても意味ないじゃないか」と思われたかもしれません。
ところが、意外なことに気づいたのです。上司は、返信していないだけで、メールやチャットを読んでいることが多かった。
それが分かったのは、直接話しかけたときでした。「先日お送りした件ですが」と切り出すと、話がすっと通じる。ゼロから説明する必要がなく、相談は短時間で終わりました。
つまり、チャットの価値は「返信をもらうこと」だけではありません。先に読んでおいてもらうだけで、口頭での相談が驚くほど軽くなるのです。
だからこそ、「返信が来なかったらどうしよう」と身構える必要はありません。読んでもらえていれば十分、返信が来たらもうけもの。そのくらいの気持ちで、まず一通送ってみてください。
文章の相談は、むしろ丁寧な印象になる
「でも、文章だと冷たく思われないかな」
そう感じるかもしれません。だからこそ、最後の「お手すきのときで大丈夫です」の一言が効きます。相手を急かさない配慮が伝われば、チャットの相談はむしろ丁寧な印象になります。
チャットで相談を送れるようになったあなたは、もう上司の様子を一日中うかがう必要がありません。
相談を送ったら、返事が来るまで自分の作業を進めればいい。上司も、自分のペースで丁寧に答えてくれる。
「話しかけられないから仕事が止まる」という悩みそのものが、少しずつ消えていきます。
「相談は口頭でするもの」という思い込みを外す
上司に口頭で相談できないのは、あなたの勇気の問題ではありません。「相談は口頭でするもの」という思い込みが、あなたを縛っていただけです。
今日の相談から、チャットで先に送ってみてください。最初の1行に結論を、最後に「お手すきのときで大丈夫です」を。
その一通が、止まっていた仕事とあなたの気持ちを、また動かし始めます。
参考文献
- Mark, G., Gudith, D., & Klocke, U. (2008). The cost of interrupted work: More speed and stress. Proceedings of CHI 2008, 107–110. doi:10.1145/1357054.1357072

