そろそろ少し高いレベルの仕事を任せたい。そう思って様子を見ていても、後輩や部下がなかなかそこに届かない。指示したことはこなせても、物事の解像度が低く、一歩踏み込んだ判断や工夫が出てこない。そんなもどかしさを感じていませんか。
「もう少しレベルの高い仕事を任せたいのに、まだできない」「解像度が低くて、何度言っても浅いままだ」「このままだと自分がずっとフォローし続けることになる」――そう感じると、教え方そのものを見直したくなりますよね。でも実は、教える内容を変えるのではなく、関わり方をほんの少し変えるだけで、「これなら成長を後押しできそう」と思える方法があります。
答えを教える代わりに、問いかける
やることはシンプルです。答えをそのまま教える代わりに、「①これは何のためにやるのか」「②他にどんな選択肢があるか」の2つを問いかけてみてください。
例えば、資料の修正方法を聞かれたときに、すぐに正解を教えるのではなく、「この資料は何のために誰に見せるものだっけ?」「今のやり方以外に、どんな見せ方が考えられそう?」と問いかける。答えは最終的に伝えてもいいですが、まず自分の頭で考える機会を挟むことが重要です。
答えを渡すほど、次も同じ質問が来る
理由①:望ましい困難
学習科学には「望ましい困難(デザイアラブル・ディフィカルティ)」という考え方があります。学びやすいように答えをすぐに与えるよりも、多少の苦労をともなって自分で考え抜いたほうが、記憶や理解の定着率が高くなるというものです。
すぐに答えを教えるのは、一見親切に見えます。しかし、考える負荷を先回りして取り除いてしまうと、その場はしのげても、応用の利く理解にはつながりにくいのです。
理由②:魚を与えるのではなく、魚の釣り方を教えよ
「魚を与えれば一日で食べてしまうが、魚の釣り方を教えれば一生食べていける」ということわざがあります。
答えを教えることは、その場の「魚」を渡すことと同じです。一方で、考え方や視点そのものを渡すことができれば、次に同じような場面に出会ったときも、自分の力で乗り越えられるようになります。育成において本当に渡すべきなのは、答えではなくやり方や考え方なのです。
理由③:解像度は、自分で考えるプロセスからしか上がらない
答えを与え続けると、後輩や部下は「言われたことをやるだけ」の姿勢に留まりやすくなります。表面的にはこなせていても、その裏側にある意図や背景まで理解しているとは限りません。これが「解像度の低さ」の正体です。
一方で、「何のためにやるのか」「他にどんな方法があるか」を自分で考えるプロセスを経ると、物事の背景や選択肢まで含めて理解するようになります。この積み重ねが、少し高いレベルの仕事にも対応できる解像度の高い思考を育てていくのです。
私の場合|「目的」を伝えて、やり方は任せてみた
以前の私は、後輩に仕事を頼むとき「やってほしいこと」だけを伝えていました。作業の指示としてはそれで十分なはずなのに、思っていたものと違うものが出来上がってくることもありました。
あるとき、入社2年目の若手に調査と結果のまとめを任せる機会がありました。そこで、伝え方を変えてみたのです。「何のためにこの調査をするのか」というやりたいこと・目的だけを伝えて、見せ方や手法は本人にお任せしました。
変化は思ったより早く表れました。まず、質問の内容が深くなったのです。「どうすればいいですか」ではなく、目的を踏まえた確認や提案が増えました。細かく教える必要がなくなったので、私が伝える時間そのものも減りました。そして肝心の成果物も、以前より期待に近いものが出てくるようになりました。
一番実感したのは、チェック・再チェックの時間が減って、自分の時間が増えたことです。任せることは仕事を手放すことではなく、考える機会を渡すこと。そう腹落ちした経験でした。
同じ質問が、繰り返し来なくなる
想像してみてください。
今のあなたは、後輩に資料の修正方法を聞かれて、こう答えています。
「ここはこうして、この順番で直しておいて」
その場はそれで進みます。でも数日後、また同じような質問が来ます。
「これ、どうすればいいですか?」
そして出来上がってきたものを見て、心の中でつぶやくのです。
「……頼んだものと、違うんだよなあ」
結局自分で手直しして、チェックと修正に時間が消えていきます。
でも、問いかけられるようになったあなたは、違います。
「この資料は、何のために誰に見せるものだっけ?」
「今のやり方以外に、どんな見せ方が考えられそう?」
少し考えて、後輩が答えます。
「課長への報告用なので……グラフでパッと見せたほうがいいかもしれません」
「いいね。じゃあ、それで進めてみて」
数日後に来る質問は、以前とは変わっています。
「目的を考えると、この項目も調べたほうがいいと思うのですが、どうでしょうか」
出来上がってくるものが変わり、チェックのやり直しが減り、あなたの時間が少しずつ戻ってきます。気づけば、自分がすべてをフォローしなくても回るチームに、着実に近づいているはずです。
答えではなく、考える機会を渡す
後輩や部下が成長しないと感じるときは、答えをそのまま教える代わりに、「①何のためにやるのか ②他にどんな選択肢があるか」を問いかけてみてください。考える機会を渡すことが、本当の意味での育成になります。関わり方を少し変えるだけで、成長を後押しする自分に変わっていけます。

