メンバーが辞めてから、チームの雰囲気がどこかぎこちない。誰も本音を口にしないけれど、みんな何かを気にしているような空気を感じる。そんな違和感を覚えていませんか。
「本当は不安なのに、誰にも言えない」「聞かれても大丈夫なふりをしてしまう」「この空気の中で本音を言うのは怖い」――メンバー一人ひとりの中に、言葉にならない不安が漂っているのかもしれません。でも実は、「これなら本音を話せそう」と思える、シンプルな関わり方があります。
一人ひとりと、短い1on1を設ける
やることはシンプルです。全体へのアナウンスだけでなく、一人ひとりと短い1on1の時間を設け、「今、何か気になっていることはある?」と個別に聞いてみてください。
大がかりな面談である必要はありません。5分でも10分でも構いません。全体の場では言いにくいことも、1対1の場であれば話しやすくなります。答えを急かさず、まずは聞く姿勢を見せることが大切です。
全体の場では言えないことが、1対1では出る
理由①:心理的安全性
組織行動学者エイミー・エドモンドソンが提唱した「心理的安全性」という概念があります。集団の場では、周囲の目を気にして本音を言いにくくなる一方、1対1の対話では安心して本音を話しやすくなるというものです。
全体ミーティングで「何か不安な人はいますか」と聞いても、誰も手を挙げないのは自然なことです。個別に聞くことで、初めて本音が出てくる土台ができます。
理由②:感情のラベリング効果
UCLAの心理学者マシュー・リーバーマンの研究によると、不安な感情を言葉にするだけで、脳の扁桃体の活動が鎮まり、不安そのものが和らぐことが分かっています。
「気になっていることはある?」と聞かれ、たとえ小さな不安でも言葉にできた瞬間、本人の中でその不安は少し軽くなります。聞くという行為自体が、すでにケアの一つなのです。
理由③:不安は放置すると疑心暗鬼に変わる
言葉にされない不安は、それぞれの頭の中で悪い方向へ膨らみ続けます。誰にも確認できないまま、「もしかして自分も」という疑心暗鬼が静かに広がっていくのです。
一人ひとりに個別に聞くことで、不安の実態――誰が何を、どれくらい気にしているのか――を正確に把握できます。実態がわかれば、的確なフォローも可能になります。
私の場合|「聞かれなかった側」のメンバーとして経験した
私はこの1on1の価値を、「聞かれなかった側」のメンバーとして実感した経験があります。
先輩が異動でチームを抜けたとき、リーダーからチームへの説明は特にありませんでした。私は「このチームで大丈夫かなぁ」というモヤモヤをずっと抱えていましたが、個別に「気になっていることはある?」と聞かれる機会は、一度もありませんでした。
では自分から切り出せたかというと、それも無理でした。立場的に、リーダーへ「説明がなくてモヤモヤしています」とは言いにくかったのです。結果、モヤモヤは口に出されないまま、ずっと残り続けました。
いま振り返っても思います。もしあのとき1対1で「何か気になっていることはある?」と聞かれていたら、私は話していたはずです。メンバーは、聞かれるのを待っています。だからこそ、リーダーの側から聞きに行くことに意味があるのです。
表面上は回っているチームの、本音が見える
想像してみてください。
今のあなたのチームでは、メンバーが抜けたあとも、表面上はいつも通り仕事が回っています。でも、メンバーの心の中はこうです。
「このチーム、これからどうなるんだろう……」
「不安だけど、立場的に自分からは言いにくいな」
「みんな普通にしているし、気にしているのは自分だけかもしれない」
誰も口に出さないまま、言葉にならない不安が静かに広がっていきます。
でも、1on1を設けられたあなたは、違います。
一人ひとりに5分だけ時間を取って、こう聞きます。
「今、何か気になっていることはある?」
少しの沈黙のあと、メンバーが話し始めます。
「実は……先輩が抜けて、このチームでやっていけるのか、少し不安で」
「言ってくれてありがとう。今の分担はこう考えていて、困ったらすぐ相談してほしい」
面談のあと、メンバーの表情は少し軽くなっています。
「聞いてもらえただけで、だいぶスッキリしました」
言葉にされた不安は、膨らむ前に手当てできます。「気にかけてもらえている」という実感が、チームの信頼を静かに支えていくのです。
個別に聞く姿勢そのものが、答えになる
チームメンバーの心理的な不安が広がっていると感じたときは、一人ひとりと短い1on1を設け、「今、何か気になっていることはある?」と聞いてみてください。個別に聞く姿勢そのものが、不安を和らげる一番のケアになります。
参考文献
- Edmondson, A. (1999). Psychological safety and learning behavior in work teams. Administrative Science Quarterly, 44(2), 350–383. doi:10.2307/2666999
- Lieberman, M. D., Eisenberger, N. I., Crockett, M. J., Tom, S. M., Pfeifer, J. H., & Way, B. M. (2007). Putting feelings into words. Psychological Science, 18(5), 421–428. doi:10.1111/j.1467-9280.2007.01916.x

