一生懸命に仕事をしているのに、評価にはなかなか結びつかない。もしかしたら、頑張っている方向性そのものが、そもそも評価されるポイントとズレているのかもしれません。
私自身、昇給の金額を見て「あれ?」と思った経験があります。事前に「何をすれば評価されるのか」を聞いてさえいたのに、です。
「頑張っている方向性がそもそもズレているのかも」「何が評価されるのか、実はよくわかっていない」――そんな漠然とした不安を抱えたまま働き続けるのは苦しいものです。でも実は、評価期間が始まるタイミングで一言をすり合わせておくだけで、「これなら、ズレなく評価してもらえそう」と思える方法があります。
評価期間の始まりに、基準をすり合わせる
やることはシンプルです。評価期間の始まりに、上司と「①何を達成すれば高評価か ②特に重視されるポイントは何か」をすり合わせる一言を交わしてください。
「今期、特に力を入れるべきポイントはどこですか」「これができれば高評価という基準はありますか」と一言聞くだけで構いません。曖昧なまま進めるのではなく、評価の軸を先に共有してもらうことが目的です。
何を頑張れば報われるかが見えないと、人は動けない
理由①:期待理論
心理学者ビクター・ブルームが提唱した「期待理論」では、努力が成果につながり、その成果が報酬(評価)につながるという結びつきが見えないと、モチベーションが下がるとされています。
この理論の背景には、人は「頑張れば報われる」という見通しがあって初めて力を発揮できる、という考え方があります。評価基準が曖昧なままだと、この結びつきそのものが見えなくなり、「何をやっても評価されないのでは」という無力感につながりかねません。何を積み上げれば評価につながるのかが分かって初めて、努力は正しい方向に向かうのです。
理由②:期待の不一致理論
事前の期待と実際の結果にズレがあるほど、人は強い不満を感じるとされています。これは評価にも当てはまります。
例えば、自分では「丁寧さ」を重視して仕事を進めてきたのに、実際に評価されるのは「スピード」だった、というようなズレはよくあります。「これだけ頑張ったのだから評価されるはず」という自分なりの期待と、実際の評価基準がズレていれば、不満が生まれるのは当然です。事前にすり合わせることは、このズレそのものを未然に防ぐ行為なのです。
理由③:早期のすり合わせが軌道修正を可能にする
評価基準を先にすり合わせておけば、期の途中で「このままの方向で合っているか」を確認しながら進められます。
一方、すり合わせがないまま進めてしまうと、評価直前になって初めてズレに気づくことになり、そこから挽回する時間は残されていません。特に半年や1年単位の評価では、途中での軌道修正ができるかどうかが結果を大きく左右します。早い段階でのすり合わせが、後悔のない評価につながります。
基準が曖昧なままだったときの、次の一手
「今期、特に力を入れるべきポイントはどこですか」と聞いても、はっきりした答えが返ってこないことがあります。明確な評価基準を持っていない職場は、実は珍しくありません。
そのときは、聞くタイミングを変えます。期首で決まらなかったぶんを、期の途中と期末前で取り返します。
期の途中:「今の仕事ぶり、どう見えていますか」
月に一度でかまいません。1対1で話す機会に、この一言を挟みます。大きな面談を待つ必要はなく、日常会話の延長で十分です。
狙いは、自分の認識と上司の認識のズレを、小さいうちに見つけることです。人は自分の努力や意図には気づきやすい一方で、それが周囲にどう映っているかには気づきにくい。ハリスとショウブルックが自己評価と上司評価を突き合わせたメタ分析でも、両者の一致度は決して高くないことが示されています。このズレは、自分の内側をいくら見つめても見つかりません。外から言ってもらうしかないのです。
「〇〇は助かってるよ。ただ、進捗はもう少し早めに共有してほしいかな」——そう返ってきたら、その週から直せます。期末に同じことを言われても、もう直す時間は残っていません。
期末が近いなら:成果を一枚にまとめて渡す
評価面談の前に、自分の成果を「①取り組んだこと ②生んだ数値・変化 ③工夫した点」の3点で一枚にまとめて渡します。
「この案件を担当し(①)、対応時間を2割短縮した(②)。テンプレートを作って再利用できるようにした(③)」という具合に、事実として書き出すだけです。自慢げに見せる必要はありません。上司が判断材料として使える形にするのが目的です。
これが要るのは、上司の記憶に限界があるからです。査定の時期、上司は十数人分の1年を思い出しながら評価をつけています。目立ったトラブル対応や直近の出来事は残りやすい一方、半年前にコツコツ積み上げた改善は、本人が思っている以上に抜け落ちます。人が思い出しやすい情報を基準に判断してしまうことは、可用性ヒューリスティックとして知られています。上司の怠慢ではなく、記憶の仕組みの話です。
だから、思い出す作業を上司任せにしない。思い出せる形にして、こちらから渡す。それだけです。
3つは、同じことを別のタイミングでやっている
期首に基準を聞く。期中にズレを確かめる。期末前に材料を渡す。やっていることは全部同じで、「評価する側と自分の認識を合わせる」ことです。
違うのは、残り時間だけです。早いほど直せる幅が大きく、遅いほど小さくなる。期末にできるのは、もう材料を渡すことだけになります。だからこの記事は、期首の一言をいちばん先に置いています。
私の場合|「何をすれば昇給するのか」を聞いても、分からなかった
私自身、昇給の金額が思ったより少なくて、がっかりした経験があります。
何もしていなかったわけではありません。事前に上司へ「何を達成すれば評価されるのですか」と聞いてもいました。ただ、返ってきたのは曖昧な答えで、はっきりした基準は最後まで分かりませんでした。そのまま期末を迎え、昇給額を見て「あれ?」。何が足りなかったのかが分からないので、納得することも、次に活かすこともできませんでした。
そのうえ、当時の職場には1on1のような定期的な面談もありませんでした。上司と評価の話をするのは、実質、期末の評価のタイミングだけ。ある期には、もらった評価コメントを読んで「あれ? 違う」と感じたこともあります。自分ではちゃんとやっているつもりの仕事が、まるでやっていないかのように書かれていたのです。しかも、その「違う」を伝える場がない。結果はもう出たあとで、いまさら反論めいたことを言い出すタイミングもなく、モヤモヤだけが残りました。
若手の頃は、それが続きました。何が足りないのかも分からないまま給料は上がらず、「ここにいても報われないのかもしれない」と転職を考えたこともあります。
今振り返って分かるのは、成果が足りなかったのではなく、成果が上司に届く形になっていなかった、ということです。そして一番きつかったのは、悔しさそのものよりも「何をすればよかったのか分からない」という宙ぶらりんの感覚でした。
だからこそ、基準は先に聞いておく。正面から「評価基準を教えてください」と構えると答えにくそうにされることもあるので、「今期、特に力を入れるべきポイントはどこですか」と、相談の形で聞くのがおすすめです。
「来期は何を頑張れば」が、先に分かる
すり合わせをしないまま期末を迎えると、こうなります。
評価面談で結果を見て、「え、これだけ……?」と固まる。「自分なりに頑張ったのに、何が悪かったんだろう」「来期は何を頑張ればいいんだろう……」。質問しようにも結果はもう出たあとで、モヤモヤを抱えたまま席に戻ることになります。
では、期初にすり合わせができていたら、どうでしょうか。
期の始まりに「今期、特に力を入れるべきポイントはどこですか」と一言聞く。上司から「そうだな、まずは〇〇かな」と返ってくる。期の途中でも「この方向で合っていますか」と確認できるので、「合ってるよ、その調子で」と軌道修正しながら進められます。
そして評価面談では、「期初に伺った〇〇を意識して進めてきました」と根拠を持って話せます。結果がどうであれ、「基準は聞いていた。方向も合わせてきた」という納得感が残ります。頑張りの方向と評価の軸が一致して初めて、努力はそのまま結果に結びつくのです。
基準は、終わってからでは動かせない
成果が正しく評価されていないと感じるときは、評価期間の始まりに「何を達成すれば高評価か」を一言すり合わせてみてください。基準が曖昧なまま進めるより、先に方向性を確認しておくほうが、努力も評価も無駄になりません。基準を先に知ることが、正しく評価される一番の近道です。
参考文献
- Vroom, V. H. (1964). Work and Motivation. Wiley.
- Oliver, R. L. (1980). A cognitive model of the antecedents and consequences of satisfaction decisions. Journal of Marketing Research, 17(4), 460–469. doi:10.1177/002224378001700405
- Harris, M. M., & Schaubroeck, J. (1988). A meta-analysis of self-supervisor, self-peer, and peer-supervisor ratings. Personnel Psychology, 41(1), 43–62. doi:10.1111/j.1744-6570.1988.tb00631.x
- Tversky, A., & Kahneman, D. (1973). Availability: A heuristic for judging frequency and probability. Cognitive Psychology, 5(2), 207–232. doi:10.1016/0010-0285(73)90033-9

