「今日も残業か……」
帰り支度をする同僚を横目に、そんなため息をついていませんか。
残業を減らしたくて、作業スピードを上げたり、ショートカットキーを覚えたり、隙間時間を詰めたり。できる工夫はもうやってきたはずです。それなのに、残業は一向に減らない。「自分の頑張りが足りないんだろうか」と、自分を責め始めている人もいるかもしれません。
実は私も、エンジニアだった頃、月100時間の残業をしていた時期があります。土曜出勤も当たり前でした。いま振り返ると原因ははっきりしていて、タスクがまったく整理されておらず、「何が重要で、何が最優先なのか」が自分でもわからなくなっていたのです。目の前に来た仕事から順に手をつけて、気づけば夜。当時の私も「もっと速く働かなければ」とばかり考えていました。
でも、あなたの頑張りが足りないのではありません。実は、「速く働く」努力だけでは残業は減らないのです。効率化して時間が空くと、そこに新しい仕事が入ってくるからです。残業の本当の原因は、働く速さではなく「仕事の総量」にあります。
解決策:週に一度、タスクを棚卸しして「やめること」を1つ決める
やり方はシンプルです。週の初めか終わりに10分だけ時間を取り、いま抱えているタスクをすべて書き出します。そして「これは何のためにやっているんだろう?」と1つずつ問いかけてください。答えに詰まったものを1つだけ選んで、やめる。それだけです。
「でも、やめていい仕事なんてない」と思いますよね。「勝手にやめたら怒られる」とも。
だから、勝手にやめる必要はありません。「この作業、目的が薄い気がするのですが、やめても問題ないでしょうか」と上司に確認すればいいのです。やめる判断は上司に委ねる。あなたがやるのは「候補を見つけて、聞く」ことだけです。
足すのではなく引くほうが、残業に効く
理由①:成果の8割は、2割の仕事から生まれている(パレートの法則)
「成果の80%は、全体の20%の活動から生まれる」——パレートの法則と呼ばれる、経験則として広く知られた法則です。
裏を返せば、残りの8割の仕事の中には、成果にほとんどつながっていないものが必ず混ざっているということ。誰も見ていない資料の更新、形骸化した定例報告。あなたのタスクリストにも、心当たりはないでしょうか。そこにこそ、削れる時間が眠っています。
理由②:タスクを減らすこと自体が、残った仕事の効率を上げる(注意残余)
ミネソタ大学のソフィー・リロイ教授は、「注意残余(アテンション・レジデュー)」という現象を明らかにしました。人はタスクを切り替えても、前のタスクに注意の一部が残り続け、目の前の仕事に集中しきれないのです。
つまり、抱えているタスクの数が多いほど、1つひとつの仕事の質とスピードも落ちていきます。タスクを1つやめることは、単にその作業時間が浮くだけでなく、残ったすべての仕事の効率を上げることでもあるのです。
理由③:スティーブ・ジョブズも「やらないこと」を決めていた
アップル創業者のスティーブ・ジョブズは、こう語っています。
「何をしないかを決めることは、何をするかを決めることと同じくらい重要だ」
世界を変えた経営者が大事にしていたのは、やることを増やす判断ではなく、やらないことを決める判断でした。タスクの棚卸しは、その判断をあなたの毎週に組み込む仕組みです。
私が実際にやった棚卸し|頭の中でやると、必ず抜ける
月100時間残業の状態から抜け出すために私がやったのは、まさにこの棚卸しでした。ただ、最初は失敗しています。
はじめは頭の中でタスクを整理しようとしました。でも、これがダメでした。忘れるし、抜けるのです。「あの件もあった」と思い出すのは、たいてい締切の直前でした。
そこで、付箋にタスクを1枚1件で書き出して、机に並べるようにしました。すると、頭の中では見えなかったものが見えてきます。仕事の流れのどこが詰まっているのか(ボトルネック)、どれが本当に優先度が高いのか。並べ替えるだけで判断できるようになったのです。
そして私が「やめた」のは、意外なものでした。タスクそのものではなく、すべての仕事を高品質で仕上げることです。並べてみると、細部まで磨き込む必要のない仕事が多いことに気づきました。それからは6割の完成度でまず出し、磨くのは本当に必要なものだけに絞りました。
やめる候補は、タスク丸ごとでなくてもかまいません。「この仕事にかけすぎている品質」も、立派な「やめること」の候補です。
何が最優先かを考える余裕が、戻ってくる
——今までのあなた。
目の前に来た仕事から手をつけて、気づけば夜。帰り支度をする同僚を横目に、「先に帰るね」の声に顔も上げられないまま手を動かし続ける。
「今日も終わらなかった……。明日はもっと速くやらないと」
家に着いてからも、やり残した仕事が頭から離れない。何が最優先なのかを考える余裕もなく、ただ速く働こうとして消耗していく。頑張っているのに、残業時間だけが積み上がっていきます。
——棚卸しを始めた、これからのあなた。
週に一度の棚卸しで、タスクリストから「何のためかわからない仕事」が少しずつ消えていきます。上司に聞いてみたら「ああ、それもうやらなくていいよ」と、あっさり返ってきた仕事もありました。そして金曜の夕方、ふと気づくのです。
「あれ、今日はもう帰れるな」
私の場合、付箋の棚卸しを始めてから仕事が流れるようになり、あれだけ当たり前だった土曜出勤がなくなりました。月100時間の残業に埋もれていた頃の私に教えたいくらい、変化は「書き出して並べる」というささやかな行動から始まったのです。
残業は「速さ」ではなく「量」で減らす
残業を減らすために必要なのは、もっと速く働くことではありません。仕事の総量を減らすことです。
今週、タスクをすべて書き出して、「これは何のためにやってる?」と1つずつ問いかけてみてください。答えに詰まったものが、最初の候補です。それを上司に聞いてみる。その小さな確認が、あなたの時間を取り戻す第一歩になります。
参考文献
- Pareto, V. (1896). Cours d’économie politique. F. Rouge.(パレートの法則は経験則であり、統一された定義はありません)
- Leroy, S. (2009). Why is it so hard to do my work? The challenge of attention residue. Organizational Behavior and Human Decision Processes, 109(2), 168–181. doi:10.1016/j.obhdp.2009.04.002

